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− 第2話 −
by:SCSI−10000
夏の暑い日ざしが降り注ぐ中を二人が落ち込んでいる。
そんな二人に静音は声をかける。
「さぁ、二人ともそんなに暗くならないでね。ここでうじうじとしていてもしかたないわよ。」
静音の言葉に二人はのろのろと立ち上がる。
「それじゃぁ、行きましょう。」
静音はそう言うと来た道を戻り始める。
それを見た重信は静音に問い掛ける。
「行くってどこに行くの?」
静音は立ち止まり振り返る。
顔は微笑を絶やさないまま真っ直ぐ重信を見つめる。
そしてそのまま鼻がくっ付くほどに近づく。
「もちろん朱樹さんのところよ。」
その台詞に重信は一歩後に引く。
それを追うように静音はついと出る。
「なんで? 実はじいさんから頼まれてたとか?」
更に後ろに引こうとする重信の肩を掴むと静音は小さく左右に首を振る
「ううん、違うわよ。」
真っ赤になっている重信を見つめながら静音は続ける。
「おじいさんね。重信君達が来るのとっても楽しみみたいなのよ。カレンダーにも赤色マジックでしっかりと書き込んでいるし。」
そんな静音に重信は目を泳がせさらに、体を仰け反らせながらさらに疑問をぶつける。
「じいさんが楽しみなのは分かるけど・・・・・なんで静音さんがきたの。俺たちのこと知らないんでしょ。」
そう言う重信の言葉に智信は相槌を打つ。
「そうです、私達とあなたは赤の他人です。そのあなたが迎えに来るなんて変わっていますね。」
静音は重信から顔を遠ざけると手で彼の背中をぽんと押す。
その後前のめりになった彼の両腕をぱんと叩くと気をつけの姿勢をとらせる。
その見事な扱いに智信は「ほほう」と唸り、びしっと姿勢よく立つ重信は呆然としていた。
そんな重信の両肩に手を置くと智信を見つめながら話す。
「おじいさんは、一緒に住んでいるお孫さんとはあまり話さないんですって。でも、3ヶ月ぐらい前からおじいさんは嬉しそうにしてたわよ。おばあさんが亡くなってから鬱ぎ込みがちだったから、それで興味が湧いたのよ。」
「興味が湧いた・・・・ですか。」
静音はうなずく。
「そうよ。おじいさんの元気のもとを早く見てみたかったの。今日来る事だけは分かってたから。」
「しかし、容姿が分からないのに良く私達が朱樹のじいさんの所に行くって分かりましたね。」
その智信の言葉に静音は紅くなる。
「じ、実は・・・3時間ぐらい前からあそこと」
と言うと右手で遠くにある桜の木を指差し。
そのまま右手をついと動かし。
「あのカカシさんの所を行ったり来たりしてたの。」
猛暑の中汗を流さず気丈に立つカカシを指差す。
そんな静音を下から見上げながら重信は呟く。
「静音さんって意外とそそっかしいんだな。」
その呟きはもちろん静音に聞こえる。
「そんなことないもん。」
彼女は子供っぽく応えると二人を置いて歩き出す。
一人歩き出す静音を見ながら智信は重信に話し掛ける。
「落ち着いた人かと思いましだが、意外と可愛い性格の人なんですね。」
「そうだね。」
「いつまでもここに立っていても仕方がありませんから追いかけましょうか。」
「そうだね。」
二人は小走りで静音を追いかける。
静音は頬を膨らませながら歩いていたが、追いついてきた重信が横につくと両手で持っていた傘から左手を離し無言で手を差し出す。
重信はその手を無言で見ていたが静音の頬の膨れた横顔を眺めているうちに彼女の要求している事を理解する。
智信は肩をすくめ歩を緩め、重信は心の中で溜め息をつくとその手をそっと握る。
その手は暖かくそして柔らかかった。
−重信は母親の手ってこんな感じなんだろうか−そう思いつつもまた別の事が思いつく。
−それとも恋人とも・・・好きな人の手を握る時に感触もこのような感じだろうか−そう思うと重信は静音の顔が見られなくなる。
頭を振りその事を振り払おうとするがそれは無駄な努力になった。
それどころか余計に意識する事になり、彼は顔が赤くなっていく。
もちろんすぐ傍にいる静音はそのことをしっかりと見ていたが、彼が自分の事を男女の関係で意識し始めてるとは分かるわけも無く単純に恥ずかしがってると思っていた。
彼女はそんな重信を見ながら繋いだ手に軽く力を入れる。
それにつられてか重信は顔を彼女の方に向ける。
静音は真っ直ぐ前を向いたまま重信に話し掛ける。
「他の人から見たら私達って親子に見られちゃうかしら?」
その言葉に重信は僅かながら肩を落とす。
−やっぱり、恋人とかと見られるわけ無いよな−そう思うとある程度踏ん切りがついたのか応えを返す。
「智信がそばにいるから親子には見られないよ・・・たぶん。」
「どうして?」
静音は重信を覗き込むようにして聞き返してくる。
そんな静音ににやりと笑うと
「そりゃ、愛人とその子供になると思うよ。」
「あ、あいじん!!」
重信はうなずきながらもう一度言う。
「そう、・・・・・・・・・・・・・・・・愛人と」
重信は静音を指差し、次にその指を自分に向け、
「その子供ね。」
そう言った重信に不満一杯の顔を静音は向ける。
「えぇー、幸せ家族じゃないのぉ。」
「うん。家族じゃないね。」
「どうして。」
「老け顔の智信がいるから。」
そう言ったとたん重信の後頭部に空き缶が投げつけられる。
重信は手を後ろに回し缶を掴むと何事も無かったようにリュックの中に仕舞い込む。
智信は舌打ちをし、静音は拍手をしながら賞賛する。
「重信君凄いわねぇ。かっこいいわ。」
「え、あ、うん。こんな事わけないよ。」
重信は照れながら答える。
「重信君がもっと早く生まれていたらおねーさん恋人に立候補しちゃうのになぁ。おしいわねぇ。」
「そ、そうだねぇ。」
重信は好きになり始めている女性からの恋人宣言に近くて遠いものを聞き元気の無い声で返事をした。
返事をした後で静音にも聞こえないような小さな声で−本当に残念だね−と呟く。
そんな重信には気づかない静音は繋いだ手を少し強めに振りながら質問をする。
「重信君って学校じゃもてもてでしょ。」
「も、もてもて?」
「運動神経が抜群そうだから、体育の時間なんかに女の子と一緒の授業だと声援が止まないんじゃないの。」
そう質問された重信は忌むべき高校時代を思い出す。
彼にとって本当にろくな事が無かった3年間だったため、その事を思い出すことになった重信は暗く沈みこみつつ答える。
「そ、そうだねぇ。ある意味もてていたのかも知れないねぇ。はははぁ。」
と乾いた笑いもつける。
「まぁ、それじゃ女の子を泣かしたりもしてたんじゃないの。」
「それはないよ。むしろ、泣かされていたしね。」
「え。」
「ううん。なんでもないよ。」
その重信は2年前の出来事を思い出しあのまま抵抗しなかったらどうなったのだろうかと考えると赤くなる。
−高校時代に女の子に襲われて裸に引ん剥かれた事があるなんて−絶対言えない事だった。
そんな青くなったり赤くなったりする重信を見下ろす静音は面白そうに微笑みながら話し掛ける。
「重信君って不思議な子ね。」
重信は顔を静音のほうに向け答える。
「そうかな。」
「何と言うかね。雰囲気とかがね。そう感じるの。一緒に居たいなぁ・・・と言う感じがするの。」
左手で剃りおろしたもみ上げの跡を掻きながら静音に答える。
「それって褒められてるのかな。」
「そうよ。そう感じる人って私以外にもいると思うわよ。きっと智信君もそう感じるんじゃないのかな。」
「智信がぁ・・・・まさかねぇ。それは無いと思うよ。」
そう言うと二人揃って振り向き智信を見る。
智信は暑そうにハンカチで汗を拭き扇子(せんす)を扇(あお)ぎながら歩いてくる。
「多分言わないだけだと思うわ。あなたはとても魅力的よ。」
そう言うと重信を引きずるように小走りに駆けり桜の木陰に入る。
そして重信からリュックを奪うと木陰に置いていた自転車の前籠に収め、続けざまに彼をひょいと抱き上げるとサドルの後に座らせた。
「それじゃ、いくわよー。」
あまりの手際のよさに重信はぽかんと口をあけて呆けていたが、正気を取り戻すと静音に話し掛ける。
「行くってどこに?」
「もちろん朱樹さんのところよ。」
「智信は?」
「・・・・・・・・・・・・・・・出発しんこー。」
「えぇー」
静音はにこにこと微笑みながら自転車を押しスタンドからたたせると助走を付けて飛び乗る。
スカートがふわっと浮き重信の目の前を静音の脚がかすめるように跳ぶ。
もちろん重信は体をそらして脚をかわしたためスカートの中身の奥の奥まで丸見えになる。
静音はいつもの用に自転車に乗ってしまった事に気づいて
「えと、重信君・・・・・・・・・見た?。」
と問い掛ける。
問われた人物はそれに正直に答えるわけも無く。
「なにを。」
と、問い返した。
問いかけた方は顔を真っ赤にしながら口の中でもごもごと愚痴を言うが意を決して
「中身を。」
とだけ言う。
そんな事を言われても答えたくない重信は、はっきりと「はい見ました。」などと言えるわけも無いので
「えーと、なんの。」
静音は後ろを振り返る事も無く真っ赤になりながら自転車を漕ぎ出し一言。
「むぅー、重信君のえっち。」
「・・・・・・・。」
静音のその言葉に重信は何も言えず黙っていた。
もちろんそれは、反論すれば泥沼に陥る事になることは容易に予測できたからだ。
重信は今日何度目かの溜め息をつくと荷台の上に立つ。
そこで180度まわり進行方向と逆を向く。
もちろんその間も静音の愚痴・・・・・いや、妄想はと止まらない。
「きっと、スケベの中のスケベに育ってしまうのね。そうよ、そしてそんな重信君はそこら中の女の子という女の子にエッチな事を・・・・。」
「スケベの中のスケベってなんだよ。」
重信のボソッとした呟きは妄想爆走中の静音には届かない。
そしてそれは加速してゆく。
「スカートをはいた女の子を見ると溢れ返る欲望が抑えられなくなって捲ったり。ついにはズボンをはいていても無理矢理押し倒したりして脱がすんだわ。」
「話を聞いてよ。俺はそんな事しないって・・・。それじゃ、犯罪者だよぉ。」
少し叫ぶようにして静音の妄想にブレーキをかけるがこの時点ではほとんど役に立たなかった。
「うそ。」
「なぜに嘘って言われるんですか。」
「じゃぁ、見たの?。」
「見せられたんだよぉ。」
「誰に?。」
「静音さんに。」
「うそ。」
「ほんとじゃないかぁ。」
「むぅ、重信君のえっち。」
「違うよぉ。」
「スケベの中のスケベ。」
静音と重信が延々と無意味に論争しながらも夏の田園を走り抜ける。
湿度のこもった風が体にまとわり付き太陽が二人を照らし、それが二人を仲裁したのか二人は黙って夏を感じていた。
背中と背中をくっつけ互いの体温を感じながら自転車は走っていく。
重信は必死に走って追いつこうとするものの小さくなっていく智信の姿をぼんやりと見ていた。
電動補助機付きの自転車は坂を登りきると下り坂だった。
智信の姿は視界から消える。
彼は静音に話し掛ける。
「静音さんって、変わってますね。」
「そう?。」
「なんか、同級生と話してるみたいだ。」
「それって、私が幼稚だということ。だとしたら心外だわ。」
「いえ、いい意味で言っているんだよ。あと、ちょっと嬉しいと思うんだ。」
「どういうことなの?。」
「秘密でーす。」
「教えてくれないの?。」
「秘密だから。」
「けち。」
静音は口をとんがらせながら自転車をこいでいたが、やがて口を緩め微笑む。
重信も笑っていた。
夏は彼らは暑く歓迎していた。
余談ではあるが、智信は夏の暑さと上り坂に降参しへばっていた。
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