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− 第1話 −

 

by:SCSI−10000

 

 

 

夏、雲ひとつ無く宇宙に浮かぶ衛星までも見えるのではないかというほど澄み切った空。

水田には青々とした稲がどこまでもどこまでも広がっていた。

時折吹く風が稲を海のように揺らしている。

その中にある一本の能動を親子に見える二人組みが足取り重く歩いていく。

 

「暑いね。」

「暑いですね。」

「遠いよ。」

「遠いですねぇ。」

 

親と思われる男は身長は180センチほどで口の周りに髭を生やしているため年齢30代半ばに見える。

そんな彼を見上げるようにして相方が文句を言いはじめる。

 

「疲れた。暑い。足が痛い。」

「足が痛い以外には同意しますよ。」

「あのなぁ、道路はアスファルトで舗装されてるんだぞ。」

「そうですね。」

「つまりそう言うことだ。」

「つまりそう言うことですか。」

 

少年は10歳にも満たない容姿でありながら声はすっかり声変わりしていた。

そんな彼は、被っていた麦藁帽子を脱ぐと抗議した。

 

「お前は背が高いからいいさ。だけど俺の身長は130センチでしかないんだ。地面から近いんだぞ。地面からの放射熱が暑くてたまらないんだ。」

「それは、大変ですねぇ。」

「・・・・・他人事かよ。」

「もちろん」

「あーそーかよ。」

 

これ以上の問答は余計に自分の体力を削ぐと思った少年は、背中に背負ったリュックの中からタオルと氷の詰まったビニール袋を取り出す。

 

「備えあれば憂いなしとはよく言ったもんだな。」

「それは、ずるいですね。」

 

その氷を取ろうと伸ばした無粋な手を少年は叩(はた)き落とす。

ビニール袋の口を広げると中身がこぼれ出さないように気をつけながらタオルを浸す。

 

「うはぁ、冷たいなぁ」

「いいなぁ。」

「だから買っとけと言ったじゃないか。」

 

男は少年に顔を近づけると質問をする。

 

「もし、ですよ。」

「うん。」

「もしも、あの時に氷を買っていたら私に持たせたでしょう。」

 

少年は満面の笑みを浮かべて大きく頭を縦に振る。

 

「やっぱり。」

「当然だよん。」

「私達は同い年じゃないですか不公平です。」

 

青年の台詞に少年は固まった。

そのまま黙ってビニール袋の中身の氷水に浸したタオルを覗き込む。

彼らの周りに聞こえる音は水路を流れる水と、ビニール袋の中の氷がぶつかる音だ。

 

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 

幸せそうに氷水に手を浸す少年を見ながら青年は手をあごの下に持っていき撫でるようにするとこう言った。

 

「うーーん。ガンダム。」

「古いネタの上に、パクリかい。」

「まぁまぁまぁ、そんな事はいいとして。さささ、私にも潤いを・・・・。」

「をいをい」

 

少年は溜め息をつくと氷水に浸していたタオルを引き上げる。

 

「ほら、頭を出しなよ。」

「やた、持つべきものは心根の通い合った友ですね。」

「へいへい。」

「ほー。」

「・・・・・・をい。」

「ごめんなさい」

 

青年は頭を下げると少年はタオルをその上に載せる。

 

「あぁぁぁ、生き返るゥ。」

「全く疲れる男だ。」

 

袋の口を閉じついでに別のタオルをほおりこむと元通りにリュックにしまう。

それから青年の頭に載せたタオルを手にとると軽く絞る。

タオルに染み込んだ冷水が後頭部から顔へとつたわり地面へと落ちる。

 

「うはぁ、冷たい。」

「やれやれ。本当に俺と歳が一緒とは思えないね。」

「あ、そう?」

「うん。」

 

少年はそう言うとタオルを広げ自分の頭の上に載せる。

 

「これで少しは耐えれるかな。」

「これで少しはマシになりますねぇ。」

「しかし、風が吹いてて良かったね。」

「そうですね。そうじゃないとここに来るまでに日射病か熱射病で倒れていたかもしれませんからね。」

「お前がその程度で倒れるか。」

「そうですかねぇ、こう見えても私はバリケードなんですよ。」

「丈夫で良かったな。」

「ボケたのに突っ込まないなんて酷いですね。」

「いちいちそれに応えてたら体が持たないよ。」

 

青年はちょっと不満そうな顔をしていたが少年の意見ももっともだと考え歩き出した。

それを見て少年も地面に降ろしていたリュックを背負い、帽子を被りなおすと青年の横に並んで歩く。

 

「あと何時間で着くのですかね。」

「さぁ、どうだろ。まぁ、道はあってるんだろ?」

「それはもちろん、頭の中にきちんと叩き込んでいますから。」

「なるほど、だったら安心だ。」

「えぇ、そのうち着きますよ。」

「了解」

 

 

それから、1時間と半が過ぎる。

彼らはまだ歩いていた。

 

「歩く事が修行の一環とはいえさすがにきついですね。」

「そうだね。」

「とりあえず正午もまわってますし休めそうなところがあればいいのですが。」

「無かったら作るまでだよ。」

「そんな事で無駄な力を使う気ですか?」

「簡単だよその場に座ればいい。」

「なるほど・・・・・でも、それはなるべく避けたいですね」

「まぁね。」

 

二人はほぼ同時に溜め息をつくと再び黙りこむ。

 

「あ、そだ。」

 

少年はそう言うと背負っていたリュックを胸側に移動させる。

歩きながら中身をあさり円筒形の筒を取り出す。

 

「あ、麦茶ですか。」

「そだよ。昨日用意したやつだよー。きちんと麦から煮出したやつだ。」

「なにをやっているのかと思えばそんな事していたんですか。」

「でも、こっちの方がうまいよ。」

「麦茶なんて市販のものでも変わらないですよ。」

「あ、そ。」

「そうですよ。」

「俺は香りが好きだから。」

「香りねぇ。」

 

そう言うと青年は少年の方を向く。

 

「む。」

「なに?」

 

青年の顔が険しくなる。

 

「なんだ?何かあるのか?」

「そ、それは・・・・水筒ごと麦茶を凍らせましたね。」

「まぁねぇ、香りがちょっととぶからぁって」

 

少年が全てを話す前に手に持つ水筒を強奪する。

 

「何するんだよ。返せよぉ。」

「だめです。返せません。」

「どうして。」

「水筒ごと麦茶を凍らせるのは禁止されています。」

「はぁ?。」

「いいですか。古来より遠足では三か条があります。一つ、おやつは300円まで。二つ、バナナはお菓子に入らない。三つ、お茶を凍らせたら行けない。」

「はぃ?」

「あなたは、三つ目の条項に違反しました。よって没収です。ちゃらちゃらちゃぁ〜。」

「なーーーーーー。なんだそりゃーーーーー。」

 

青年は意味不明の発言をすると少年の抗議を無視し腰に手を当て一気に飲み干そうとした。

そんな青年に対する寛容な心は今の少年には無かった。

ワンステップの後に体を深く沈みこみ・・・・彼は全身をバネのように使い青年に向かって跳ぶ。

右の足が風を引き裂き青年の持っていた水筒を襲った。

鈍い音がすると同時に水筒はくるくると回転しながら中に入っていたお茶をばらまき道路に落下した。

 

「な、なんて事をするんですか。」

「お前に飲ませるぐらいならこうしてやる。」

「・・・・・・私を怒らせましたね。」

 

青年はそう言うと拳を少年の方に向け構えをとる。

その言葉を聞いた少年も背負っていたリュックを置くと同じように拳を構え対峙する。

 

「だったら自分で用意すればよかったんじゃないの。手ぶらで来てよく言うよ。」

「う・・・。」

 

少年のもっともな言葉に言葉が出なくなる。

それでも、彼は声を振り絞って出した。

 

「だ、だから、それがどうしました。」

「開き直るのかよ、大人気ないねぇ。」

「大人気ないってあなたが少し前にやった行為も大人気ないでしょ。」

 

その言葉に少年は構えをとくと手を頭の後ろに組みそっぽを向く。

 

「さぁて、しぃらないねぇ。」

「むむむ、お仕置きです。」

「ふふん、返り討ちにしてくれる。」

 

その言葉が終わる前に青年は拳を少年に向けて振り下ろす。

 

「もらいましたよ。」

「ぬぁ。」

 

青年の拳をぎりぎりでかわすとそのまま大きく跳ねて間合いをとると、そこで動きが止まる。

その少年らしくない行動に訝しく思いながらも追い討ちをかけるべく動こうとする。

 

「こら、やめなさい。」

「え?」

 

透き通るような声でこの状況に介入する第三者が現れ、青年に折りたたまれた日傘による強烈な一撃が振り下ろされる。

気配を感じさせず振るわれた一撃を青年がかわせるはずもなく綺麗に頭を直撃する。

 

「あいたー。」

「あなた、子供に対してこんな事をして・・・・・恥を知りなさい。」

「子供って・・・あぁ、俺か・・・・俺ね。」

 

少年の容姿が子供に見えるということを再確認しているあいだもその女性は、「この、この」と言いながら青年を叩きつづける。

叩かれる青年の方も本気で反撃する事が出来ないので、全て腕で受け止める。

 

「ちょっとやめてください、誤解です。あいた、いたい。」

「何が誤解ですか。こんな子供に殴りかかって。さぁ、私がこの暴漢を食い止めますから君は逃げなさい。このこのこのぉ。」

「そんな、暴漢って。」

「あなた以外のどこにいるんですか。」

 

女性の台詞に青年は唖然とする。

もっとも、相方の容姿を見て自分と同年ととるのは難しいだろうと判断すると、少年に目で何とかしろと合図する。

少年も青年を放置して逃げるわけにいかないので女性と青年の間に体を割り込ませる。

 

「まってください。」

「え、どうして。」

「えーと、なんて言ったら良いのかな。こう見えても実は俺二十」

「あーーーーーーーーーーーーーーまだ溶けてない麦茶が残ってる。」

 

少年の話しを青年が大きな声を上げ止める。

そして、小声で耳元で話し掛ける。

 

「駄目じゃないですか。これは関係者以外に話してはいけないでしょ。」

「でも、なんて説明すれば良いんだよ。」

「そんなの、あなたの頭から何とかひねり出して考えてください。」

「そんな都合のいいこと急に浮かぶわけ無いだろ。」

 

そんな二人の行動を女性は腕を組み訝しげに見ている。

少年はこのまま黙っていても事体は進行しないので頭に浮かんだ言葉だけで話す事にする。

 

「あ、あのーこう見えても俺達親友なんだ。」

 

その言葉を言ったとたん女性の目が厳しくなる。

『う、疑われてるなぁ。』

『疑われてますねぇ。』

青年は少年の背中を指で突付きもっと色々話すように急かす。

 

「それに、従兄弟なんだ。ちなみに戸籍上は俺の方が叔父になるんだけどね。」

「え、そうなの。ちなみに君はいくつ。」

 

その言葉を聞き少年は心の中で頭を抱えるが、青年の方がそれをサポートする。

 

「こいつは12歳で、私は20歳です。」

「ふーん、こんな変な甥をもって大変ねぇ。」

 

少年は大きくうなずきこう応えた。

 

「全くです。」

 

その言葉に青年のこめかみに血管が浮かぶが、ここでまたやり合うと厄介な事になるので唾を飲み込みさらに目頭を抑えて我慢する。

(我慢しろ。ここで激発したら元も子もなくなる。)

 

「それにしても今時麦茶を煮出して作るなんて珍しいわね。」

「え、聞いてたんですか。」

「あれだけ大声で自慢しながら語っていると聞こえますよ。」

 

その声に二人は顔を合わす。

『つけられた気配なんてあった?』

『いえ、ありません。この人は一体何者なんでしょうか。』

『今は、この件は保留しとくしかないね。』

などと、二人で目で話し合っている間も女性の会話は続く。

 

「私のお母さんもよく煮出して作ってたのよねぇ。そして、今日みたいに暑い日が続いた時は二日に一回は作ってたわねぇ。家に帰ると麦茶の香ばしい香りに包まれて、いい香りだったわね。」

「それじゃ今はどうしてるの。」

「私も結婚してからは麦茶を作ったけど残念ながら煮出しては作らないわ。美味しいのは分かるけどちょっと作るのにてまがかかるから。水出しのパックのやつで作っちゃうわね。」

「ほほう、私はめんどくさいからコンビニでペットボトルのを買いますね。」

 

青年がそう言うと二人は揃って声に出す。

 

「「それは高くつくからから駄目。」」

 

二人の共通した言葉に青年は反論が出来なかった。

 

「ごもっともです。」

「だから、今度からはわざわざ買ってくるなよ。」

「わかりましたよ。買わないようにします。」

 

そう言った所で青年の目の前に缶がほおり投げられる。

 

「おっと。」

 

青年は突然ほおり投げられた缶に驚きながらも左手で掴む。

缶をほおり投げた犯人は青年の方を見ないままリュックの中に蹴り飛ばした水筒を仕舞い込みながら話す。

 

「イオン飲料しかないからそれで我慢しろよ。」

「あなたに感謝します。」

「うむ。堪能しながら飲みたまえ。」

 

青年はその言葉が終わらないうちに缶を開け飲み始める。

 

「冷えてて良いですねぇ。」

 

そんな青年をあきれたように見ながら女性にも同じ缶を差し出す。

 

「お姉さんもどうぞ。」

「え、良いの?」

「まぁ、色々と迷惑をかけたからね。」

「ありがとう、ところであなたのお名前は?」

 

そう言うと少年を覗き込むように見る。

少年は少し照れながらも自分と相方の紹介をする。

 

「川内重信(かわうちしげのぶ)だよ。ちなみにこれが松山智信(まつやまとものぶ)。」

「重信くんね。私は鏑木静音(かぶらぎしずね)ちなみに35歳よ。」

 

静音も同じように自己紹介をしたが、その年齢を聞いたとき二人とも容姿に似合わない年齢に動きが止まる。

智信は持っていた缶を取り落としそうになり、重信は氷水を少々こぼしリュックを濡らす。

そして、二人はは同時に口に出す。

 

「「うそ。」」

「本当です。」

「だって、若々しいよ。」

「若く見えすぎますよねぇ。どう見たって20代前半にしか・・・。」

「うん。」

 

二人して呆然と静音を見る。

静音は顔を赤らめながら二人に車の免許書を見せる。

二人揃って免許証を覗き込むように見たあとふたたび彼女の顔を覗き込む。

 

「信じられないよな。」

「そうですねぇ。」

 

そういっている智信を静音は指差し反論する。

 

「そう言うあなたは20代には見えませんよ。どう見たって10歳はさばを読んでいます。」

「ひ、ひどい。」

 

静音の言葉は鋭く智信の心をえぐる。

その様子を見て重信はフォローを入れる。

 

「髭をそれば5・6歳は若返って見えるんじゃないか、剃ればいいんだよ。」

 

重信の言葉に対して智信は簡潔に言う。

 

「嫌です。髭は私のチャームポイントであり」

「あ、そう。」

 

そう言うとリュックを背負い直す。

 

「それでは俺たちはそろそろ行きます。」

 

重信は軽く頭を下げると静音に頭を下げ歩き出そうとする。

 

「あ、まってくれない。あなたたち朱樹(あけぎ)さんのところに用事があるんでしょ。」

「え、どうしてそれを知っているんですか。」

 

ショックから立ち直った智信が静音に問い返す。

 

「だって私も近所に住んでるんですもの。朱樹さんの庭は私のところからもよく見えるわよ。」

「え、それでは庭に赤松の木が植えてあるのも。」

「もちろん。あのおじいさんの自慢の松ですから。本当に大きくて立派な木だけど、残念ながらここからじゃ見えないけどね。」

「じゃあ、じいさんは元気なわけだ。」

「もちろんよ。毎朝ラジオ体操をしているわよ。」

 

その言葉に二人は小さいころの記憶が甦る。

10歳の時に二人揃って眠い目をこすりながらラジオ体操とその後の乾布摩擦・・・・。

 

「もしかして、その後タオルを持って乾布摩擦していない?」

「やっているわよ。」

「そうですか、変わっていませんか。」

「嫌だねぇ、老人の押し付け主義は。」

 

二人のげんなりとした顔を見ながら面白いものを見たように静音は微笑む。

 

「でも、おじいさんは楽しみにしてたわよ。酒を飲みながら釣りでもしたいわいとか言ってたわ。」

「ふーん・・・角張った石も磨耗して少しは丸くなったのかな。」

 

重信の皮肉に智信は応える。

 

「さぁ、どうでしょう。会ってみないとそれは分かりませんよ。それに、どんなに丸くなった石でも割れると刃のようになっているから気をつけないといけませんよ。」

「それは、怖いね。」

 

そんな二人を見ながら静音は持っていた日傘を差す。

『今日から暫くは楽しい日が続きそうね。そして、とっても暑い夏が。それは、私にもあの娘(こ)にも良い事になるわ・・・・・きっと。』

そう静音は思うと目を閉じる。

風の音と二人の悩む声その二つが静音の耳に入る。

そして、誰にも聞こえない声でそっと呟く。

 

「私と、水音(みずね)に良い事が有りますように・・・神様お願いします。」

 

 

 

 

 

 

...To be continued " age LINK -02- " (『エイジリンク − 第2話 −』へ続く。)

 

 

 

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