This short storys

based upon "Ressya monogatari"

created and illustrations by  Mr. K.Murayama

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Be out of order word

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の午後、陽光の中を列車が走っていた。

 

 

 

「ある日のこと・・・・」

 

 

 

車窓から流れる景色の元、車両の中で少女が声を発していた。

 

 

 

「その時、太陽は西に傾き・・・」

 

 

 

そして声はやがて言葉となり、更に物語となって聞く者の耳へと紡がれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カタン・・・カタタタタタタン、タンカタンタタタタカタン・・・

 

 

 

リズミカルな音だった。

その音は少女の声と共に発せられ、その言葉に歩調を合わせるように響いていた。

 

 

 

唯、その音を発していたのは楽器の類ではなかった。

それは言葉を紡ぐ道具・・・そう、ワードプロセッサーと呼ばれる機械が発する音だった。

 

 

 

タンタンタンカタカタタンタンタンカタカタタンタン・・・

 

 

 

それは少女がいつも愛用している、唯一の財産とも呼ぶべき機械だった。

 

 

 

「雲一つ無い空の下・・・」

 

 

 

いつも少女の言葉を紡ぎ、『物語』という名の織物を織り上げていた機械だった。

 

 

 

タタタタカタカタカタンタンタタタンタンタンタン・・・

 

 

 

唯、いつもなら機械を奏でているのも少女自身なのだが・・・今日は少し違っていた。

 

 

 

 

 

 

「碧が生い茂る林を抜けた・・・」

 

タタタタンタタタンタンタン・・・

 

 

 

 

 

 

一人の女性だった。

少女の対面に座り、自らの膝の上にその機械を置いた20代半ば程の女性だった。

その女性の黒い瞳は少女を暖かげな視線で見続けていた。

その女性は一欠片の視線も機械に与えることなく、自らの膝に置いた機械を操作していた。

そして少女よりも遙かに早く、機械よりも遙かに優雅に先程から音を生み続けていた。

 

 

 

「訪れる人の・・・少なく・・・」

 

カタカタカタンカタタタン・・・

 

「少なく・・・えっと・・・あ、あの・・・」

 

 

 

不意に言葉が止んだ。

それと共に音も途切れた。

 

 

 

「あの・・・」

 

 

 

車内に静寂が訪れるに従い、困惑と悔悟の入り交じった表情を少女は作り始めた。

 

 

 

「・・・」

 

目の前の女性は一言も発さなかった。

唯、親愛の瞳で少女を柔らかく見ていた。

そして急くことや責めることなど欠片も混じっていない暖かな笑顔を向けていた。

 

 

 

それだけだった。

 

 

 

だがそれだけで少女は自分の<つかえ>が払われ、心が軽くなったように感じた。

 

 

 

そして・・・

 

 

 

「風・・・暗雲を払うような強く柔らかい風がその時吹きました。」

 

 

 

再び声が言葉になった。

 

 

 

カタカタカタカタタタタタカタカカタカタタタンカタタタタン・・・

 

 

 

まるで一心同体のようにリズムが再び奏でられ始めた。

 

 

 

そしていつの間にか車両の中に溢れていた。

それは少女の強弱と情感を伝える声と、単音しか出せない機械とが織りなしていた。

 

例えるなら・・・まるで音楽のように、

例えるなら・・・まるで心音のように、

例えるなら・・・まるで魔法のように、

 

物より発した音と、語られし言葉が紡いだ「物語」が。

 

 

 

 

 

 

やがて・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・でした。めでたしめでたし。」

 

 

 

カタカタ・・・カタン・・・

 

 

 

物語の終わりと共に奏者達は常世へと立ち戻った。

 

 

 

 

 

 

そして・・・

 

 

 

 

 

 

「はぁい。おつかれさまぁ〜」

 

その女性は軽快かつ和らげな口調で目の前の少女に語りかけた。

 

「はい・・・あの、どうでしたか?」

 

そして少女は満足さにやや不安を交えた表情でそれに答えた。

 

「そぉねぇ〜・・・とぉっても面白かったわぁ〜」

「ありがとうございます・・・あ・・・あのそうじゃなくて・・・それ・・・」

「あははー、じゃ、ちょぉっと使ってみてくれるかしらぁ?」

 

そう言うと女性は自分の膝に置いたままのワードプロセッサーを少女に返した。

 

「は、はい・・・え、えっと・・・」

 

 

 

かた・・・かたかた・・・かたかたかたかたかた・・・たたかんかんたんかんかん・・・

 

 

 

そして、ややぎこちない手つきで始まった音が、やがていつもの音へと変わっていった。

 

「・・・直ってる・・・直ってます!」

「あははー、良かったわぁ〜」

「これ最近急に調子が・・・上手く言葉を作ってくれなくて困ってたんです。」

「でももぉ大丈夫みたいねぇ〜」

「はい。ありがとうございます!」

 

その様子に満足したように女性は軽やかな動きで席を立ちだした。

 

「・・・それじゃあ私はそろそろ失礼させていただくわぁ〜」

 

そしてその言葉を残し、入り口へと歩を進めだした。

 

「あっ、あ、あの・・・」

 

何の見返りも要求せず立ち去ろうとしていた女性に少女は声をかけた。

 

「なにかしらぁ?」

「これの・・・修理代ですけど・・・」

 

振り向いた女性の瞳に懐具合を気にしつつも道理を通そうとする少女の姿が写っていた。

そして女性はそんな少女に何処か悪戯っぽい瞳を向けながらそれに答えた。

 

「あらぁ〜、それ、どぉっこも壊れて無かったわよぉ〜」

「えっ?・・・」

「だから修理代はいらないわぁ〜」

「で、でも・・・こ、これ・・・」

 

まるで手品の種を証すようなそんな言葉に、少女は不思議そうな表情を作るだけだった。

 

「あはは、まあこんなこともあるわよ・・・じゃ、これからも頑張ってねぇ〜」

 

そして女性はそう少女に告げると、すっと後ろを振り返り、先程初めて現れたときと同様、

その腰まで伸びた長い黒髪を僅かに揺らしながら別の客車へと去っていった。

 

 

 

それは颯爽と・・・まるで柔らかな風が通り抜けて行くようだった。

 

 

 

 

 

 

そして夕暮れ頃。

 

 

 

かたかたかたかたかたかたかたかたかたかたんかたかたかたたんたたたんたんたた・・・

 

 

 

少女はいつもの少女のように物語を書き続けていた。

 

 

 

かたかたかたかたかたかたかたんかたかたかた・・・かた・・・かた・・・

 

 

 

・・・?

 

 

 

・・・

 

 

 

「・・・あっ!」

 

 

 

それにやっと気付いた少女の声が小さく車内に響いた。

そう、本当は「何が」調子が悪くて、一体「何を」直して貰ったかということに・・・

 

 

 

 

 

 

                                     END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この作品はK.Murayamaさんの著作である「列車物語」より私が創作しました。

そしてご本人より挿し絵を頂戴したことを受け、4月15日にリニューアルしました。

K.Murayamaさん、ありがとうございました!

 

 

 

                    ご意見、ご感想等、何かございましたら掲示板まで。