仮説雑貨商1,300ヒット記念投稿作品
「 聖 餐 」 " T h e S a c r a m e n t "
By 平 山 俊 哉
きしゃあああああっ!!
ビルに匹敵するほどの巨大な猛獣・・・いや、怪獣が威嚇するように吠える。
B17太陽とビスコムーン星系の中間地帯に生息していると言われている、
ゲタメキラという巨大生物が、動物園に運ばれてくる途中、当局の手落ちで
逃亡したというニュースは聞いていた……が、まさか、
いきなり都会のど真ん中に姿を現わすとは思ってもいなかった。
スターネットのニュースによれば、なんでも、もう15人ほどが、
この化け物の餌食になったそうである。
まあ悪いが、俺としては、不運だったとしかコメントのしようがない…。
が、同情する余地なぞ、無論あるはずがなかった!
下手をすれば、このまま彼らの仲間入りを果たすかも知れないのである。
いくら、日常に刺激が乏しいと、日頃知人に、こぼしてはいるものの、
人食いの怪物なんぞとは、スターネットの受像機を通してから対面したかった…。
踵を返し、とにかく逃げようとしたその時、まばゆい閃光が空を走った!!
じょわっ!!
…おお、来た、来やがった!(しかし、今回はいやに早かったな…・?)
ゲタメキラに匹敵するほどの巨躯、全身深紅の超人。
誰が呼んだか、名を「カーマインマン」…、まるで、俺が子供の時に
流行っていたTV番組のヒーローのようである。
「カーマイン=ナイフ!!」
げしゃああああ!!
カーマインマンが、いったいどこから取り出したのか、呆れるほど
巨大なナイフを、ゲタメキラに突き立てた。
げあああああああ・・・・悲痛な声を上げるゲタメキラ。
しかし、怪物の旺盛な生命力は、まだ消え失せてはいなかった。
残った力を振り絞り、体当たりをしかけるゲタメキラ。
「カーマイン=アロー!!」
今度は持ち手に十字架のような物がついた、長大な投槍が現れる。
カーマインマンは、それを上空に投げ放った!!
どすっ!!
鈍い音がして、怪獣の肩口から地面に縫い付けるように、投槍が突き刺さる。
口から膨大な量の血泡を吹き散らし、ゲタメキラはあっさりと絶命した。
「じょわっ!!」
現れた時と同様、また唐突に彼方に飛び去っていくカーマインマン。
ヤツの正体は未だに謎のベールに包まれている。
(実は、「銀河連邦」の秘密治安維持官ではないかという、まことしやかな噂も
スターネットに流されているが定かではない…)
まあ、それでなくとも刺激の少ない日常である。
若い奴等の中には、ヤツの熱狂的なファンも多いらしい。
しかし…、どうも、俺はカーマインマンを好きになれなかった。
ヤツの戦いっぷりというか仕事っぷりは、どう見ても殺し屋か・・・あるいは
屠殺人を連想させるのだ。
(昔見たTVのガイなんとかとかいうヒーローものの主人公には、もう少し
人間味を感じたものであるが・・・)
最近、ヤツがやたらにスターネットのニュースページを賑わすことが多いのも
気に入らない…、そうこう思っている間に、科学宇宙局の保安部隊が到着した。
巨大な怪物の死体を、見蕩れるほど手際良く解体し、回収していく。
奴等は、「銀河連邦」から派遣された者が大多数を占めると聞く。
実際、こういう作業は、手馴れたものなのだろう。
…さて、「銀河連邦」については多少の説明が要るだろう。
1999年7月、地球は、悪魔のような異種生命体の急襲に晒された。
無論、人類は必死の抵抗を重ねたが、手も足も出なかった。
そして、絶望の淵に立たされた人類の前に現れたのが、「銀河連邦」の
エージェントと名乗る異星の知的生命体の一団だった。
連中の話によると、奴等は、「銀河連邦」が誕生する以前の戦乱期に作られた、
破壊行為を存在意義とするバーサーカーであるらしい。
まるで安手のアニメかSFのようだが、現実を前にしては軽口一つ叩けない。
そこで、連中は、こいつらを退治しようと申し出たのである。
地球の「銀河連邦」への参入を条件にして…
だが、権勢欲の旺盛な地球の統治者たちは、疑心暗鬼から彼らの協力を拒んだ。
そして、その結果…、各国の統治機関とその指揮下の軍隊は、想像以上の
手痛い反撃を受け、次の選挙を待たずして、尽く壊滅させられた。
結局、連中の言う通りにするしか、人類には道は残されて無かったのである。
かくして、人類史上初の恐るべき外敵は滅ぼされ、地球は「銀河連邦」の
保護下に入った…、それは、人類社会にとって飛躍的な発展を齎すことになった。
破壊された都市も、優れた再開発計画により復興し、至る所に利便性が行き届いた
子供の頃によく読んだ児童雑誌の口絵を飾っていた未来都市そのままのように、
住み心地の良いものに生まれ変わった…。
(かってのいかがわしい不健康さまで一掃されたのは、気に入らなかったが……)
異星の優れたテクノロジーの導入により、あらゆる産業の生産性は飛躍的に向上した。
例の事件が起きるまでは、俺は某ソフトハウスのシステムエンジニアだった。
とは言うものの、所謂プログラマーと未分化な部分が多く、心身的に決して
楽な仕事では無かった…、納期間際にバグが発生なぞした日には、それこそ胃が軋む
思いで会社に泊まり込んだものである…。
だが、今や、当時のようにあくせく働く必要は無くなっていた。
現在は、異星文化調査のモニターと称して、日に2時間ほど奴等の提供する機械を
いじくりまわす程度のことしかやってない。
そんなことで、快適な住居の提供や、日々の生活の保証をしてくれるのだから、
生来、さして勤労意欲の旺盛でない俺としては、まあ、ありがたいことではある。
(…機械や使用されているソフト類(?)の説明はされなかった…
やってる事に関しては、未だにちんぷんかんぷんな部分が多い…)
今日も今日とて、一日のノルマを果たし帰路につく。
もし…、ここにもう少し長く留まっていれば…、自分の扱う機械のディスプレイに
奇妙な明滅と共に、見慣れぬ文字が浮かび上がったのに気が付いていただろう…。
うーむ、最近どうも腹の周りの脂肪が厚さを増したようだ。
まあ、あの程度の仕事ではストレスの溜り用がない。
時間は有り余る程あるのに、俺は運動というものに労力を費やす趣味を
これっぽっちも持ち合わせていないから、なおさらである。
モニター職に与えられた共用住宅にはサウナまで付いている。
やーれやれ大したもんだ…、異星文化万々歳だな…
(ま、どの道、その後に貰い物のビールをしこたま煽ることになるから、
さして変わり映えはしないがね…)
素っ裸になったまま、器械の椅子に座り、15分後に開くようにセットし、
リモコンを脇に置くと、無彩色のプラスチック板のようなものが起き上がり、
首を出した状態で、身を包みながら閉じていく。
これも彼らが作ったものらしいが、この手の技術はいずこも変わり映え
しないもんなんだろうか?
シュウウウウ・・・・
あっ・・・熱い、熱すぎる!!
な、何だ、これは!?・・・蒸し焼きにでもするつもりか!!?
蒸気の温度はどんどん高くなり、更に耐え難くなっていく。
止まれ、止まってくれえええっ!!!
俺は必死に透明板をこじあけようとしたが、びくともしない。
体は首を残して、ほとんど固定されているようなものである。
げえええええええええええっつ!!!
俺の全身は、今や茹でられた剥き身のエビのように真っ赤だった!!
ひぃいいいいいいっ!!
熱い、熱いいいいいっつ、助けてくれ、助けてくれえええ!!
だ、誰かあああっ、助けてええええーーーーーっつ!!!
N市の郊外に、都市再開発前によく見られたような、おんぼろアパートが
ぽつんと建っていた。
その中の住人の1人である若い男が、粗末な食事をすすりながら
古めかしい外見の受像機から流れる放送を、ぼんやり眺めている。
しかし、今風の地球人の若者が目にしたら、それは世間に流通して
いないタイプのものであることがすぐに判っただろう。
そして、映し出される放送も、地球人向けのものではないことにも…。
「さて、次はこの商品です」
受像機の中で、空々しい作り笑いを浮かべた異星人の男女が、
テーブルの上に陳列された商品の一つを指差した。
「あらまあ、これは美味しそうなお肉ですねえ…ゲタメキラですか?」
「ええ、色艶からして違うでしょう…。何しろ、これは、
新鮮なテランの肉のみで育て上げた逸品ですからねえ・・・」
おっ、あの時捌いた肉が出回るようになったか…、早かったな。
さて、早速、局に問い合わせてみるか…。
なんたって、今の俺は特別派遣官の御身分だからな…
番組のスポンサーも、優先的に回してくれると約束してくれたし…。
コスモネット受像機の上には、一個のホログラフ投影器が置かれていた。
それは、テラン(地球人)にカーマインマンと呼ばれる巨人の姿を、多彩な
光線で紡ぎ出していた。
こんな美味いもの、カニバル本星に居てもそうそうありつけないからな。
いや、本当…、一度食ったら止められねえや。
まあ、こんな余録でもなきゃあ、こんな僻地の仕事なんて真面目に
やってられねえからなあ。
ビスコムーン星系、第3惑星カニバル…。
銀河連邦所属の惑星国家の中でも、独特の食文化が発達した地である。
彼らは、自分達の欲求に忠実すぎて、非合法な手段に訴えることが
往々にしてあった。
これからも、彼らは貴重な食材の確保に勤しむことだろう。
巧妙に事故を装いながら…。
「さて、次は・・・30齢のこってりと脂の乗ったテランの肉を材料にした・・・」
「仮説雑貨商」管理人より。
平山さん、ありがとうございました。
いつもながらこの様な良質の作品を投稿していただき管理人として感謝いたしますと共に、
今回も読者として楽しませていただきました。
それからお読みいただいた皆様。是非平山さんに更なる執筆の要望を!