血の報酬 ”Rewarded of bloody”
BY 平 山 俊 哉
マス=ドライバー=キャノンから放たれる大質量弾が、ひっきり無しに飛来する。
既に、主戦場は衛星軌道に移っている。
我がドゥラーク星間神聖王国の主力・・・空間戦闘を無敵たらしめた、
恒星間宇宙戦艦の出番は、もはや、ここには無い。
現在となっては、その発祥も定かでは無い・・・・
銀河戦争の落し子、人造人間国家ホノーリス帝国。
その植民地である、このネリゥーラの制宙権は、ほぼ我が軍によって掌握されている。
後は、スターゲート艦による、より多くの進入路の確保が必要であった。
星間航行能力を犠牲にした、敵の重装備のモニター艦が、
小型軽量のデストロイヤー艇を従えて、重厚な火線を放つ。
地上基地から一気に大気圏を貫き、突撃艇の群が前線に割り込んでくる。
ちっ、流石に最終防衛ラインだけのことはあるな・・・
先に最前線に取り付いた、この突撃重巡洋艦”サー=クリストフ”の任務は、
何隻かのピケット艦隊と共に、現座標を占位し続けることである。
この星の衛星軌道を、味方の突撃艇で埋め尽くし、
揚陸艦から空挺部隊が、驟雨の様に降り注ぐ・・・
その光景を待ちわびながら・・・・間断無く艦砲射撃が続く。
永劫に近く感じられる時間・・・・まるで、生殺しだ・・・・・
ちゃんと地に足を付けてりゃ、まず、口にする言葉じゃないが・・・
しかし、敵の抵抗は恐ろしく頑強だった。
殺到する核融合ミサイルに、電磁投射器で投射されるカリフォルニウム弾。
瞬間的な大熱量に、シールドが緩和しきれず、
”サー=クリストフ”の装甲が、次々に融解し、引き剥がされていく。
おいおい、冗談じゃない・・・いくら、俺達だって、核反応の爆発の
真っ只中に放り込まれたら、蒸発しちまう・・・
この船だって、ここまでやられりゃ、そうそう保つもんじゃない。
このまま、犬死には真っ平だ・・・・・
ん?・・・、そうか、この戦場は俺を殺すことが出来るんだったな・・・
・・・この感触・・・久しぶりだな。
俺の忍耐は、さして間を置かずに報われることとなった。
戦闘環境のシンカーが、搭載突撃艇の放出を既に決定していた。
ある種の爬虫類の脱皮の様に、装甲カバーが、捲れあがり、弾けていく。
爆発する”サー=クリストフ”・・・だが、突撃巡洋艦という艦種の任務は全うされた。
散間する突撃艇・・・さあ、ここからは俺一人・・・これからが本当の戦いだ。
艇の底部から、核融合魚雷が、鎖から解き放たれた猟犬のように滑り出る。
衛星軌道に配備された敵の重力カタパルトが、解放されたエネルギーの中で融けていく。
格下のはずの衛星高度戦闘艇が、ブースターで打ち上げられ、何機もすがりついてくる。
まあ、敵ながら勇敢と評すべきだろう。
唯一、勝る運動性で、レーザー攻撃を仕掛ける敵の戦闘艇。
しかし、そんな貧弱なラディェーション兵器など、この突撃艇の一次装甲はおろか、
三種ある変更シールドの一つも貫くことは出来無い。
足止めが狙いで、本命は体当たりだろうが、全く無駄なことだ。
こちらとて、本気を出せば、機械の身体のパイロットに遅れをとることなど無い。
何せ、俺の身体は、「霧」と化して、この突撃艇の隅々まで行き渡っている。
それにしても、こいつら・・・ホノーリスの行動原理については、首を傾げることが多い。
俺達にとって、この惑星は、確かに重要な拠点になるだろう。
だが、奴らにとって、ここは、さして価値のある土地とは思えない。
人造人間共にとって、自然物は絶対の忠誠の対象であるらしいが。
何らかの答えを得るには、奴らの起源にまで、遡らなくてはならないだろう。
そこへいくと、俺達の出自を語るのは、至って簡単だ。
かって、隆盛を誇った銀河惑星連合の長征宇宙艦隊。
それを、我らが「神」、偉大なる「開祖」が制圧したのだ・・・只の一人で・・・
後続の軍団が、形成されたスターゲートを潜って次々に集結する。
徐々に敵の占める空間が、味方のものと入れ替わる。
後方の突撃艇編隊のエンブレムは、到着した専用母艦から発進したものだ。
揚陸艦の下部から、無敵のドゥラーク空挺部隊が降下していく。
そう、彼等は地上において、まさしく「不死」と呼べる存在なのだ・・・
勝った・・・この時点で、我々の勝利は確定した。
俺の艇の腹部から、最後の核融合魚雷が滑り出す。
それは、そのまま、敵の本営・・・軌道要塞を大破させた。
この惑星は、大した文明レベルを持っていない。
粗末な建築物が点在する中、着地した大型揚陸艦の司令部が、
そのまま、臨時の総督府になった・・・いずれは、我らの文化に相応しい、
厳めしい造りの「城」が立ち並ぶことになるだろう。
祝勝の儀典が始まり、艦隊司令や幕僚たちが威風堂々と立ち並ぶ・・・
その傍らには、いずれも華やかな美女が寄り添っている。
「我らは、無事、この惑星を占拠することが出来た。
これも、卿らの奮闘の賜物である。」
「これで、更に遙かなる地を目指し、長征の旅を続けることが出来よう。
さぞや、我らが「開祖」も喜ばれることであろう・・・」
「さあ、宴だ。美酒を酌み交わそうではないか!!」
放漫な肉体を古風なドレスで包んだ美女たちを、ついと引き寄せる男達。
「乾杯!!」
「乾杯!!」
唱和とともに、短い悲鳴・・・そして、紅い飛沫が幾つも迸った。
「うむ、良い味だ・・・」
「くくく、甘露の極み・・・やはり、合成種ではない・・・
天然種のヒトの血・・・こたえられぬて・・・」
地色が銀色のはずの装甲板を、無数の焦げ痕が埋め尽くしていた。
俺は、ドッグに入る途中の愛機を眺めていた・・・いや、愛機だったと言うべきか。
今回の戦功で、俺は、久々に昇格を果たし、幾名かの部下と、
新造の護衛艦を与えられることになっていた。
「・・・・・・閣下。」
徐々に近づいてくる呼び声が、自分を招いているものと気付くには、
少し時間が必要だった。ああ、そうか・・・
航宙軍指令、ロード=ツェペシから、この度、爵位を賜ったんだったな。
「サーヴェント=ロウ男爵閣下・・・」
「何だ?」
甲板士官に連れられた人影・・・女か?
ほほう、これは見事な・・・つややかな肌、輝くような金色の髪・・・
何よりも、生命力に溢れている蒼い瞳が素晴らしい。
やはり、天然種のヒトは違う・・・
無骨者の俺の眼から見ても、本当に美しい生き物だ・・・
今までの報償の中では、一番気が利いている。
うむ、気に入った・・・「贄」として、滋養にするもいい・・・
生体端末としても、良い物が出来るだろう・・・が、
・・・まずは今宵・・・
平山さんに感想と続編の催促を是非!