新興都市、第三新東京市内の○△町二丁目の外れ。

ここには、再開発前から存在したといわれる古ぼけたポストが佇んでいる。

 

もちろん、文化財の一種とかというわけではない。

むしろ、町の美観を損ねるとかいう理由で撤去されてもおかしくない代物である。

 

ただ、市の役人も開発工事を請け負った業者たちも、どういうわけか、

これに手を付けることが無かった・・・まるで彼等の目には映らぬかのように。

 

別の土地から来た新しい住人たちも、この奇妙なポストを、取り立ててどうにか

するわけでもない。

 

ただ、子供たちは、なにかとこのポストのことを気にかけ、そして噂した。

彼等は誰に教えられるでもなく知っていたのだ。

 

 

・・・そう、これは「妖怪」に願い事をするためのポストなのだと

 

 

あるどんより曇った日の夕方。

 

一人の小学5年生の男の子が、思いつめた表情で、このポストの中に手紙を入れた。

 

「お願いです・・・。いなくなった友達を探して下さい・・・

トウジやケンスケや・・・ヒカリちゃんをどうか助けてあげて下さい・・・」

 

真剣な表情でポストに向かって手を合わせる少年・・・名を碇シンジといった。

 


  

 

 

げげげのレイちゃん VS 悪魔っ娘アスカ



 

「魔笛エロイムエッサイム

 


 

 

 

 

 

主題歌 げげげのれ〜ちゃん(TVサイズ)

 

 

 

げ・げ・げげげのれ〜

 

いかりくんのねどこです〜す〜す〜♪

たのしいの?…そう、たのしいのね♪

いかりくんはしなな〜い♪

あたしがまもるもの♪

 

げ・げ・げげげのれ〜

みんなでうたおうゲゲゲのれ〜

 

 

 

 

 


BY:平山俊哉 


 

 

 

からんころん、からんころん・・・

 

その日の夜も更け・・・、ふと寝苦しさを憶えて目覚めたシンジが、

夜気を取り入れようと窓を開けた時、なにかしら妙にリズミカルな

音が下から聞こえてくる。

 

・・・21世紀の今時分、珍しい下駄の音である。

 

「?」

 

それはシンジの部屋の真下ほどのところで唐突に聞こえなくなった。

ふと、気を取られ、足を外に面したベランダ側に向けるシンジ。

 

 

ぼおおおおおお・・・・

 

「ひっ!!」

 

地上7階のはずのマンションのベランダに、何か青白い影が佇んでいる!?

 

「うわああああああっ!!」

 

思わず、その場にへたりこむシンジ・・・シンジはあまり勇気のある少年ではない。

どちらかというとかなり臆病である・・・少しちびったかもしれない。

 

「おんなのこに、それ・・・失礼」

 

いったい、どうやって、ここまで来たのか・・・

そこにいたのは、蒼い髪と赤い瞳、そして、透き通るような白い肌をした、

可愛らしい10歳くらいの少女だった。

 

 

「き・き・き・きみ誰えええええっ!!」

 

「・・・あたし、げげげのれ〜ちゃん」

 

「そ、そお?・・・って、そのげげげって何ーーーーっ!!?」

 

「2月2日、2丁目のよ〜かいポストにてがみを入れたのはあなたね?」

 

「え・・・いや、ボクはその・・・」

 

「・・・あなたね?」

 

「あ・・・あ、あああ・・・・」

 

「あーなーたねえええええ?」

 

いつのまにか、2頭身になってシンジの頭上にふわふわと漂っている少女。

 

・・・いわゆる、おばけあやなみモードである

 

 

「ひ、ひえええええええええ!!」

 

腰を抜かしたまま、器用に格闘ゲームのようなバックダッシュで後ずさるシンジ。

 

・・・またまた少しチビったかも知れない。

 

 

「ああんた、馬鹿あっ!?」

 

っぱあああああーーーーん!!

 

突然、少女特有のかん高い声と共に小気味良い音が周囲に響いた。

 

これまた、何時の間にか、黄色いワンピースを着た可愛い少女が乱入して

レイの後頭部をサンダルでひっぱたいたのである。

 

年の頃は、レイと同じか少しだけ上であろうか。

淡い金髪と蒼い瞳、そして整った顔立ちからして、おそらくハーフか

クォーターであろう。

 

「ああっ・・・アスカ、アスカじゃないか!?」

 

シンジは突然飛びこんできた、訳知り顔のその少女に見覚えがあった。

 

惣流アスカラングレー・・・以前、シンジの家のとなりに住んでいたが、

生家の事情で母方の生まれ故郷であるドイツに引っ越してしまった。

 

シンジとは同い年の幼馴染の少女である・・・それがいったいどうして?

 

 

「・・・どうしてぶつの?」

 

「いちいち依頼人嚇かしてどーすんのよ、アンタはあああっ!!?」

 

「よけーなおせわ・・・・・・(ぼそ)おさるのくせに」

 

「あああんだってええええ!?」

 

・・・アスカ=イヤーは地獄耳であるらしい。

 

「と、とにかく、ボクが妖怪ポストに出した手紙の件で来てくれたんですよね!」

 

慌てて止めに入るシンジ・・・すでに、とっぷりと夜が更けている。

こんなところで喧嘩されて、両親に感づかれてはたまったものではない。

 

見知っているアスカはともかく、この蒼い髪の風変わりな少女も見かけは、

自分と同じくらいの年齢である。

 

だが、この少女の存在感は、実際、綾波・・・もとい並なみ成らぬものがあった。

それを敏感に察知して、ついついへりくだってしまうのが、この少年の

情けないところである。

 

「・・・そう」

 

こくりとうなずくレイ。

 

「あのー・・・、と、友達はいったいどうなったんでしょう?」

 

「・・・・知りたい?」

 

レイの顔に、幼さにつりあわないとんでもなく邪悪な笑みが一瞬浮かんだ

 

「(がびーーーん!!)・・・あ、いい、いいです!!」

 

一番の問題事項にもかかわらず、背中一面に冷麦・・・もとい冷汗をたらしながら、

シンジはそれ以上追求するのを止めた。

 

 

・・・実際、かなりのへたれである。

 

 

「こらあああーーっ、アタシを無視すんなあああーーっ!!」

 

しいいいっ!!

 

はしたないポーズと知ってやってるのか、中指をぴぃんと立てるアスカ。

やたらと丈が短いレモンイエローのワンピースからは、白いかぼちゃぱんつが

ちらちらのぞいている・・・。

 

ま、歳相応の御愛敬と言って良いだろう・・・素材は良いので、成長すれば

かなり期待が持てるはずである。

 

(・・・もっとも、それまでに、この性格が矯正されていればの話であるが)

 

 

「ふっ、このアタシ、・・・千年に一度の超絶天才美少女!!

惣流アスカラングレーさまが、こうして乗り出してきたからにはどぉんな事件も

即座に解決かいけつうう!!・・・時代遅れのアンタなんてもー用済みよ!!」

 

「・・・あたし、バーさんじゃない」

 

「はあ?・・・何言ってんのよ、アンタ?」

 

「・・・あ、あのー二人とも喧嘩は」

 

ン!!

 

ジオンのモビルスーツのモノアイのような音を立てシンジをにらみつけるアスカ。

 

「とーこーろーでシンジぃいい!・・・アタシ、前もって手紙出しといたはずだけど!」

 

「うん?・・・あ、ああ、そうだった!!」

 

突然のことで驚き、やや記憶が混乱していたが、たしかにそうである。

(まさか、こんな時間にこんな非常識な来訪をするとは思わなかったが)

 

慌てて自分の机の中をひっかきまわし、一通のエアメールを取り出すシンジ。

その中には、アスカのへたくそな日本語で「帰る」と書かれた手紙とともに、

彼女のサインの入った写真まで同封してある。

 

そのポートレートは、まるでスーパーモデルのような超豪華なプロポーションに、

現在の幼顔が乗っかった珍妙なものだった。

 

 

・・・パソコン上で、コラージュでこしらえたのがまるわかりである。

 

 

自称だと説得力に乏しいが、アスカは確かに知能指数が異様に高い。

大きく開いた胸元の部分にはマジックで”ココに注目”と書いてあり、

更にその横に何か小さい文字で書いてある。

 

 

 

「何々?、この写真は、惣流アスカラングレー嬢の未来の活躍想像図ですうううっ!??」

 

 

がびーーーーーーーん!!!

 

(・・・・・・・アンタは、昔のガン○ムのプラモデルかいいいっ!!?)

 

 

 

ぴぴぴぴん!!

 

突然、レイの蒼い髪が一房、ぴんっと立ち上がった!!

 

「わっ・・・な、何!?」

 

「・・・寝ぐせ」

 

「あは・・・なあんだ」

 

「・・・うそ、妖気」

 

「ええええええーーーーっ!!!?」

 

「パターン赤、・・・おさる」

 

「ぬぁににににいいいいい!!?」

 

「赤いもの、おさる、おさるのおしり・・・、きーきーとうるさいもの」

 

「そーいうことを言うのは、この口か?・・・こーのー口ーかあああっ!!?」

 

「むにぃいいいいい!!」

 

「わああ、ちょ、ちょっと待って!!・・・い、今、お茶とお菓子もってくるから!!」

 

慌てて両者の間に入り、取り成すシンジ。

今から、こんな苦労を積んでいるようでは、本当に先が思いやられる。

 

みし・・・みし・・・

 

朝が早い両親を起こさぬよう、忍び足で冷蔵庫の中のエクレアとパインジュースを

取り出すシンジ。

 

「・・・これ、アスカは昔から好きだったけど・・・あの子はどうかな?」

 

どうも、さっきからあの風変わりなレイという女の子が、シンジは気になって仕方がない。

 

(ちょ、ちょっと変わってるけど・・・可愛いよね、うん)

 

思わず顔が赤くなるシンジ。

 

だが、騒ぎに紛れて彼はひとつ肝心なことを忘れていた。

 

 

・・・そう、レイが感知した何物かの存在である!!

 

 

 

・・・ぼおおおおおお

 

またもや、外に面した窓に、ぼんやりとした光が広がる。

 

(な、なんだろ?・・・き、気味悪いなあ・・・で、でも、小火(ぼや)だったりしたら)

 

なにせ、いきなりの訪問者が闖入したばかりである。

 

・・・散々逡巡したあげく思い切って、窓をあけるシンジ。

 

 

「なんじゃもんじゃあああああああーーーーっ!!」

 

「ほんぎゃああああああーーーっ!!」

 

思わず悲鳴をあげるシンジ・・・彼が見たのは、窓一面に広がる蛙とも人ともつかぬ

とてつもなく大きな顔!!

 

 

・・・こてん

 

シンジはそのまま、ある種のアニメのヒロインみたくあっさり気絶してしまった。

 

 

 

「・・・・いまのは!?」

 

「バカシンジの声!?」

 

からころからころ・・・

 

声のするほうに駆けていくレイ・・・

呆れたことに、部屋に上がっても下駄を履きっぱなしである。

 

 

「・・・ちっ、もう来たわねぇ!!」

 

こちらは慌てず騒がず、悠然と構えるアスカ

 

・・・度胸の据わり具合は、シンジとは雲泥の差である。

 

アスカが、その小さな腕に剣道の小手を思わせる器具を取り付け、手早く操作する。

 

・・・なんとそれは、彼女自作のウェラブルコンピュータであった!!

 

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、我、千年王国の継承者、

惣流アスカラングレーが求め訴える!!」

 

 

ぼおおおおお・・・

 

その言葉と共に、シンジの部屋の絨毯の上に光で出来た魔方陣が映し出される!!

 

 

「出でよ、我が第一使徒メフィスト三世!!」

 

 

わんわんわんわんわんわぁあああああ・・・・・・ん!!

 

白煙とともに、白いマスクとシルクハットを被り、マントとタキシードに身を包んだ

長身の人影が現れる!!

 

 

「お〜れの名はメ〜フィ〜ストさ〜んせい・・・なーんてな。

や〜あ、今度の獲物は何かな〜、ぷ〜ちこちゃ〜ん?」

 

「だあああれが、ぷちこちゃんかあああああ!!!」

 

おもいっきし、揉み上げの濃い猿顔の悪魔をぶんなぐるアスカ。

 

 

 

一方、台所に向かったレイは・・・開け放たれた窓から刻一刻離れていく

シンジの”気”を、敏感に感じ取っていた。

 

 

「えいっ!!」

 

小さな体を利して、そこから急いで外に飛び出すレイ!!

 

♪べんべんべべべんべんべんべべべんべん

 

「!?」

 

突如、寒空に似つかわしくない、陽性の脳天気なギターの演奏が聞こえてくる。

 

・・・おそらくは、ベンチャーズであろう。

 

ヘタくそなギターを奏でながら、灰色の髪のにやけた一人の少年が現れた。

 

 

「んー、音楽はいいねえ・・・、リリンの創った文化の極みだよ」

 

「・・・あなた、誰?」

 

「ボクかい?・・・ボクはエリート、吸血使徒エリートこと渚カヲルだよ」

 

「・・・いかりくんをさらったのは、あなた!?」

 

「うん?・・・ああ、さっき大かむろがさらっていった、あの可愛い男の子のこと?」

 

「・・・あなたたちね、こどもたちをさらっていく犯人は!?」

 

「・・・ふっ」

 

カヲルと名乗った少年の、にやりと笑った大きな口の端からノコギリの刃のような牙がのぞく。

 

「そうか、そうだったのかい・・・キミがあの有名な幽霊族の末裔の女の子だったのか。

ボクらの計画を邪魔する悪い子には、おしおきが必要だね」

 

・・・・ばさばさばさばさ

 

闇の中から何か大きな、・・・そして無数の羽ばたき音が聞こえてくる!!

 

 

「それっ・・♪チャッ、チュニッ、ウォッ、チュ!!」

 

 

いいいいいいいいっ!!

 

 

カヲルの刻むキテレツなリズムに応えたのは、信じられないほど大きな

吸血蝙蝠の群れだった!!

 

 

「だめ・・・いかりくんをかえして!!」

 

空を覆うほどになった吸血蝙蝠の群れに、敢然と立ち向かうレイ!!

 

 

ゃああああああ!!

 

「妖能力、指ばるかん!!」

 

なんと、レイの右手の指先がすさまじい速度で発射される!!

たちまち、吸血蝙蝠がばたばたと撃ち落される。

 

「妖能力、ひーとろっど!!」

 

今度は、左手に持ったオカリナの尖った先がまるで、金属の鞭のように

伸びていく!!

 

ゅうううううう!!

 

陶器のはずのオカリナからに仕込まれていたのか、鋼線がするすると伸び、鞭のように、

蝙蝠たちを打ち据える!!・・・誰が作ったものか、なかなか凝ったからくりである。

 

驚くべきことに、レイは、体内電気まで発生させ、鋼線の鞭を帯電状態にしてどんどん

威力を増していく。

 

 

「ほほう・・・なかなかやるね」

 

「・・・ざくとはちがうのよ・・・ざくとは」

 

「・・・・・・何の自慢かな?・・・それは」

 

 

 

「ちょいまちーーーーっ!!、アンタばっかしいいカッコさせるもんかああ!!」

 

そこに、アスカの声が割り込む!!

 

なんと、先ほど召還した猿顔の悪魔メフィスト3世に乗って、空からの登場である。

 

「さああ、いっちょぶわあああーーっと、やったんなさい!!」

 

「わーかった、わーかったって、もう〜、悪魔使いが荒いお嬢ちゃんだね〜」

 

まるで、ク○カンのように間延びした声が、緊張感のかけらもなく応える。

 

「魔力、ビームライフル!!」

 

シュッ!

 

なんと!!・・・手にしたステッキから凄まじい威力の光条が放たれ、

レイに劣らぬ勢いで、吸血蝙蝠たちを撃ち落していく!!

とぼけた風貌だが、メフィスト3世は、これでなかなかの魔力の持ち主である。

 

 

「・・・ふっ、これはひとまず引いたほうがよさそうだね」

 

この期に及んで、なお気障な口調の吸血使徒カヲル

・・・とはいえ、劣勢はもはや覆せそうもない。

 

「・・・さらばだ、縁があったらまた逢おう、あぱらちゃのもげーた!!」

 

さんざんカッコつけておいて、カヲルは、とっとこ逃げ出していた。

 

 

 

しびびびびびっ!!

 

その時、一陣の風に乗ったひとつかみの砂がカヲルの視界を奪った!!

 

更に、その背に何か猿のようなものが跳び付き、しがみついたまま、

あっという間に重くなって行く。

 

 

「ほんぎゃああ、ほんぎゃああっつ、ほんぎゃあああっ!!」

 

・・・それは、赤子の泣き声・・・・にしては妙に枯れていた。

 

無様にひっくり返ったカヲルは、自分の胸元にしがみついたものを確かに見た!

 

・・・そして、口から泡を吹いて卒倒した。

 

 

 

「をーほほほほっ、この”砂かけぎゃる”のリツコをなめないで欲しいわね」

 

「きゃあああっ、センパイステキですうううっつ!!」

 

先日、砂かけ(ぴー)の名を、母のナオコから襲名したリツコと、のマヤである。

 

・・・それにしても、3○才で”ぎゃる”と平然とのたまうあたり、かなりの強心臓である。

 

一方、マヤのほうだが・・・、何故ネコ娘かというと・・・深く考えないで欲しい。

(・・・あ、いや、頼むから(汗))

 

猫娘などといいながら、どう見ても、20代前半以下には見えないのだが・・・

頭の大きなリボンと、裾が膝上30cmという、赤いワンピースが極悪である。

(・・・というか、かなり痛い)

 

 

そして、頭の打ち所が悪かったのか、ぴくりとも動かないカヲルの胸元からも声がする。

 

「ふっ・・・この”子泣きダンディ”の私、・・・コウゾウもな」

 

 

金太郎のような腹掛けをした赤子の身体に、枯れたナイスミドルの顔を乗せた

奇怪な人物・・・いや、妖怪が一人ごちた。

 

 

 

しーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん。

 

 

 

・・・こなきだんでぃ!・・・こなきだんでぃ!!・・・こなきだんでぃ!!!

 

 

何度聞いても、この強烈なイメージギャップには、そうそう慣れるものではない。

・・・たちまち、全員の頭の中が真っ白になった。

 

 

通りすがりのバードマンに、みんな記憶を消されて、しばらくした後・・・。

レイは、顔見知りの妖怪たちが、揃っているのにようやく気付いた。

 

「あ、砂かけばーさん・・・」

 

「だああれがばーさんかあああっ!!?」

 

「ばーさんは用済み…、ばーさんはしつこい…」

 

びびびびびびっ!

 

砂かけリツコの百烈張り手が、容赦なくレイのふにふにの頬っぺを真っ赤に

腫れ上がらせる。

 

「せっかく応援に来てやったのに、そんな憎まれ口を叩く悪い子には

おしおきが必要だわねえええ・・・!!」

 

「せ・・・センパイ、やめてぇええ、相手は子供ですうううっ!!」

 

よほど激昂したのか、肩で荒々しく息をする砂かけリツコ。

 

「と、とにかく、子供たちの居場所を吐かせるのが先・・・あら?」

 

いつのまにか、ふん縛ったはずの吸血使徒エリートのカヲルの姿が、別人に

変わっていた・・・ギターを持ったところは変わらないが、カヲルとは似ても

似つかぬロンゲのとっぽい兄ちゃんである。

 

「い、・・・いったい、オレが何したっていうすかああ!?」

 

顔をぼこぼこに腫らした、自称ストリートミュージシャンの青年、青葉シゲルが

滝のような涙を流しながら鬱陶しく喚いた(・・・ま、いい年をして、夜の町を

徘徊し、大声で歌ってるほうにも問題が無い訳ではないのだが)

 

 

「・・・ふ、変わり身の術とは・・・敵もなかなかやるな」

 

「「「「アンタが言うなああああ!!!」」」」

 

自分のことを棚上げしようとした”子泣きだんでぃ”に、皆がすかさずツっこむ。

 

まあ、これだけの隙があれば、ひとかどの妖力を持つものなら、たやすく逃げ出す

ことが出来よう。

 

 

 

もああああああああっ!!

 

 

 

騒ぐ皆の足元に、大きな影が出来る・・・居合わせた全員が見上げると、そこには!!

二本足で熊のように直立し、顔はある種の爬虫類に似た・・・、そして腹はまるで

狸のように異様に脹らんでいる、巨大な獣がビルの間から姿を顕わしていた!!

 

 

ーーーっ!!

 

 

獣が奇怪な咆哮をあげる・・・どう見ても尋常な生物ではありえない。

明らかに、一連の誘拐事件の犯人である妖怪一味の仲間であろう。

 

「あっ、あれは!!」

 

「よ、妖怪獣ぺロリゴンだわ・・・、いまどきこんなものに出くわすなんて!!」

 

「・・・相手も、こちらに対応する戦力を用意していたってこと」

 

「うむ、・・・単なる不良妖怪による誘拐事件だと思っていたが・・・

こりゃ根はなかなかに深いというわけだな」

 

 

「・・・ちっ、小賢しいわねー、見てなさい!!」

 

それでも、アスカには怯んだ様子は窺えない。

この幼い少女の揺るがない自信は、いったい何処から来るのであろうか?

 

今度は抱えたディバックから、自作のハンドヘルドコンピュータではなく、

何か別の・・・古びた笛のようなものを取り出している。

 

 

「あっ、それは、まさか?・・・ソロモンの笛!?」

 

レイが武器に使ったオカリナに、幾分形が似ている笛を見て。

博識な砂かけぎゃる(げほげほ)・・・のリツコが驚いて声をあげる。

 

 

「そーよっ、アタシのヒヒ爺ぃ・・・じゃない!!

ひいお爺ちゃんのファウスト博士の形見、正真正銘の魔笛よ!!」

 

ボリュームの足りない胸を反らせて、ふんぞり返るアスカ。

 

ろーーーっ

 

 

 

 

 

 

しーーーーーーーーーーーーーーーーーん。

 

 

 

 

 

 

誰が聞いても音程が外れているのが判る。

 

「・・・・あなた、音楽の笛のテストの時、放課後まで残されてたわね」

 

ぽつりとつぶやくレイ・・・・・・図星である。

 

「う、うっさいわねーーーっ!!」

 

それでも、地面に徐々に・・・先刻とは比較にならぬほどの、印系を刻んだ

魔法陣が浮かび上がり、緩々と回転を始めた。

 

まさに魔笛・・・人類最強の魔族使役者、ソロモン王の遺産(レガシー)の

ひとつである!!

 

「大義無き連邦を討つために・・・、星の屑成就のためにぃいい!!

ソロモンよ、アタシは帰って来たああああっ!!!」

 

 

・・・ま、当の本人は思いっきしカン違いしてるが。

 

 

おおお・・・・ん!!

 

 

間の抜けた音とともに、白煙が濛々と立ち上る魔法陣の中から、

またしても、なにものかが姿を顕わそうとしていた!!

 

 

 

 

 

 

(続く)