...ANOTHER PART:"AWAKE TO NIGHTMARE"
瓦礫の中だった。
あの死闘から数週間後、その舞台の階下での出来事だった。
破壊された坩堝から流れた人蝋が奇怪な文様を床に描いていた。
その人蝋になり損ねた人体の成れの果てが饐えた臭気を放っていた。
それは崩れ落ちた資材の重なり様と相まった、正に狂気のオブジェめいていた。
生きていた。
その様な状況下においてなお、生を保持する者がいた。
その顔面はそげ落ちた様に消失し、既に感覚器官としては用を成さぬ状態だった。
その体躯は既に千切れ飛んだ手足はおろか、露出した臓器すら破損が著しい状態だった。
だが。
確かに生きていた。
もはや肉塊と称する以外に適切な表現が無い状態なれど生きていた。
常識で考えればとうの昔に死んでいるはずの状態にも関わらず生きていた。
しかも、ごく僅かずつなれど破損した部分全てが再生に向かうように生きていた。
何故かは解らない。
一体何が起こっているのか、それはその人物すら知らないかも知れない。
ただ、未だ混濁したままの意識の中にある蘇りつつあった記憶があるのみだった。
かつてここの主と対戦し、そして敗北した・・・
その主ですら消滅を与えることが出来ぬ故、代わりにここに・・・
最大1センチ角に肉体をきざまれ、主自身が造った瓶に全て肉体を封じられた・・・
・・・だが主の死去に伴い破壊された瓶から全く同じ姿で復活した者の記憶を!
そいつは10歳程の少女の姿をしていた。
ブラウンの瞳とややソバージュのかかったセミロングの髪をしていた。
そして・・・そしてこの世の悪夢を音に変えたが如き気違いじみた笑い声を上げていた!
そいつが何者も今は解らない。
そこに残る<肉塊>に何を行ったのかも解らない。
ただ、まるでここの主に匹敵するような運動能力でここを立ち去ったこと・・・
そして朱色に変色した、その<肉塊>が所持した眼鏡を代価の如く持ち去ったこと・・・
その程度であった。
それがいずこへと立ち去った、肉体を取り戻したある娘に残る記憶の全てだった。
それもまた・・・この世界にある現実の一つ・・・
THE END?